広大な圃場現場で空中写真測量による出来形管理を効率化
株式会社曙建設
新潟県長岡市
土木部 主任
上村 俊樹 氏
会社概要
曙建設は、1916年(大正5年)に創業し、2026年に創業110周年を迎える。新潟県長岡市を拠点に、長年にわたり地域に密着した公共土木工事を手がけてきた。河川、山野、田畑、道路、橋梁など、長岡の自然や生活インフラに深く関わる施工実績を多数有しており、同社の仕事は地域の風景に自然と溶け込んでいる。また、「未来の長岡を創る仕事」として、日本三大花火大会のひとつである「長岡まつり」の花火会場となる信濃川堤防の維持管理工事も担っており、地域の文化と安全を支える重要な役割を果たしている。地域社会との共生を重視し、風景と調和する施工を通じて、人々の暮らしに貢献し続けている。
Solution Linkage Point Cloud
空中写真測量の内製化で現場対応力を強化
今回、曙建設がSolution Linkage Point Cloud(以下、SL-Point Cloud)を導入したのは、「令和の大改修」として知られる大河津分水路改修事業の一環で、圃場の整備を行っている「大河津分水路掘削土処理(分水西部地区)その5工事」である。
本工事は、大河津分水路事業の土砂を利用して圃場の表土剝取り(掘削)と基盤整備(盛土)を行う。大河津分水路は、洪水期の流下能力向上を図るため山地部および水路を掘削して川幅を広げている。分水西部地区では工事によって発生した土砂を利用して低地状態になっている農地の盤上げを行い、冠水リスクの低減を図っている。
空中写真測量の外注における課題
従来、空中写真測量は外部の測量業者に委託して実施しており、1回あたりの費用が数十万円にのぼることもあった。頻繁な測量が求められる現場では、コスト面で大きな負担となっていた。
また、業者への依頼には日程調整の手間が伴い、撮影当日の天候によっては再調整が必要になるなど、スケジュール管理にも課題があった。さらに、盛土箇所では施工から2週間ほどで草が生い茂るため、出来形計測の直前には除草作業が必要となるケースも多く、現場の負担が増していた。
広大な圃場現場を最小限の工数で3次元点群データを生成
SL-Point Cloudは、ドローンで撮影された写真をクラウドにアップロードするだけで、簡単に高精度な3次元点群データを生成できるサービスである。
SL-Point Cloudを導入することで、これまで現場の状況を空撮する目的でのみ使用していたドローンを、測量にも活用できるようになり、自社による3次元測量が可能となった。高圧線付近などドローンの飛行が難しいエリアについては、TLS(地上型レーザースキャナ)を併用し、点群データを補完。これにより、現場全体を最適な手法でカバーする測量体制を構築した。
「すべてのエリアをTLSで測量を行うと時間がかかるが、空中写真測量も併用することで、広い範囲を短時間で正確に測量できるようになった。」と上村氏は話す。
自社内製化による柔軟な測量対応と現場作業効率の向上
この現場は日本海に近く、風の影響を受けやすい環境にある。そうした環境でも、自社でドローンを使って空中写真測量をできるようになったことで、天候に合わせて柔軟に撮影できるようになり、測量業者との日程調整も不要、業務負担を大幅に軽減した。さらに、施工完了後すぐに出来形計測を実施できるようになったことで、測量待ちによる施工の遅延を防止。従来必要だった計測前の除草作業も不要となり、現場作業の効率化と省力化に大きく貢献している。
空中写真測量の内製化にあたっては、精度の確保に不安があった。しかし、現場で点群生成が可能になったことで、万が一作業ミスがあってもすぐに現場に戻って修正できるようになった。
また、現場事務所で作業しているため、現場からの問い合わせにも即座に対応でき、業務のスピードと柔軟性が向上。点群生成の処理速度も速く、昼休憩前にアップロードすれば、休憩中に処理が完了し、午後からすぐに次の作業に取りかかることができた。「対空標識の自動認識機能も良く、これまでのように写真1枚ずつに座標付与する手間がなくなり、3次元データ作成の手間が大幅に楽になった。」と上村氏は話す。
現場で完結する点群生成で移動時間を大幅削減
仮にSfM(Structure from Motion)ソフトウェアを導入し、自社で3次元データ生成を内製化しようとした場合、パソコンは本社に置くことになるため、現場作業後に片道約40分かけて本社に戻って作業する必要があった。しかし、SL-Point Cloudは現場のパソコンで3次元点群データ生成が可能なため、本社への移動が不要となり、移動時間を含めて約200分の工数を削減。作業効率が向上し、現場での対応力も高まった。
施工進捗に合わせた柔軟な出来形計測で工期短縮を実現
従来は測量業者への外注により、全工区の基盤整備が完了した後に除草作業を行い、まとめて出来形計測を実施する必要があった。そのため、測量のタイミングが限られ、施工の進行に制約が生じていた。自社で空中写真測量を行えるようになったことで、各工区の施工進捗に応じて、タイムリーに出来形計測を実施することが可能となった。これにより、測量待ちによる工程の停滞を防ぎ、次工程へスムーズに移行できるようになった結果、全体の工期短縮にもつながっている。「今回の現場では測量の回数が多いからこそ、SL-Point Cloudの利用価値をすぐに肌で感じることができた。」と上村氏は話す。
地元に貢献するリーディングカンパニー
人の暮らしが時とともに変化するように、まちの姿も少しずつその形を変えていく。曙建設が手がける土木構造物は、そうした変化の中でも人々の生活に欠かせない存在として、地域に根付き続けている。
「後世に残る仕事」として、曙建設は地域社会と調和しながら、風景の一部となる構造物を築いている。まちの未来を支えるインフラづくりを通じて、人々の暮らしに貢献し続けることが、曙建設の使命である。